今回から、動画「名建築を放課後に」で扱った写真を一枚選び、解説していきます。今月はこちら。アルヴァ・アアルトが設計した「アアルト自邸」です。
彼が生きていた時代は歴史的意匠の様式建築から一転し、産業革命以降の工業化社会を背景に機能的、合理的なモダニズム建築へと移行していく時代でした。工業生産によるコンクリートやガラス、鉄などの材料が多岐にわたり使用され、新しい建築を模索する建築様式にアアルトは共感を得ていたといいます。
一方この写真では緑や木の穏やかな雰囲気が感じられます。ソファに座った目線から外の見える範囲を計算し窓の高さを調整することで、内外の境界を無くして緑を取り込むという手法を使っていました。
全体照明でなくスポットにしていることもこだわりの一部だと思います。自邸を建てたフィンランドは緯度が高いため冬の夜が長い。住環境をより良くし、夜の暗さも楽しむために、あえてペンダントライトやスタンドライトで雰囲気が出る設計にしたのだと思います。
このように機能的な建築様式のみにとらわれず、独自の感性で人の暮らしに焦点を当てた、建築に関連するトータルデザイン。これこそアアルトが今なお好まれている理由なのだと感じました。